ビジョナリーカンパニー3

著者(編集者):ジェームズ・C・コリンズ
出版社:日経BP社

「偉大な企業への飛躍の道を探ったビジョナリーカンパニー1,2に続く第3巻は衰退する企業の傾向を探る」
《傲慢な無視》

衰退の各段階を見ていく中では、様々な形の傲慢にぶつかることになる。世界一になれない分野への規律なき進出という形の傲慢。卓越性を維持しながら達成できる以上の成長を追及するという形の傲慢。矛盾しあったデータやみずからの誤りを示す事実を無視して大胆で高リスクの決定を行うという形の傲慢。外部からの脅威や内部の堕落のために企業が危険な状態になりうる可能性すら否定するという形の傲慢。そして、とりわけ危険な形の傲慢さとして、傲慢な無視。

主要な弾み車に残っている可能性を無視するのは傲慢である。それ以上に悪いのは、主要な弾み車は退屈だと考えて無視し、成功はほぼ間違いないとの思い上がりから、次の大事業に関心を移す傲慢である。中核事業が近く没落する事態になったとしても、その事業を惰性になかせる理由にはならない。完全に撤退するか執念を持って若返りを図るべきであり、主要な弾み車を無視してはいけない。。

偉大な芸術家が不朽の質の高さと衝撃的な創造性をともに追及するように、偉大な企業は継続性と変化の間に生まれる生産的な緊張を大切にする。一方では当初の成功をもたらした原則を維持するが、他方では常に進化し、創造的な改善と知的な適応によって手法をかえていく。

《変革とは》
「変革しなかったから衰退した」というような単純なものではない。衰退の後の段階で見ていくように、一貫した根拠が無いまま絶えず変革を続けた企業も、全く変革しなかった企業と変わらぬほど確実に衰退している。具体的な慣行と戦略を厳守すること自体は、本質的に間違っているわけではない。しかし、これらの慣行の背後ある理由を理解し、維持すべき時期と変えるべき時期を判断できなければならない。
《第二段階 規律なき拡大》
規律なき拡大の追及では、燃えるような情熱をもって取り組めるわけではなく、これまでの分野に隣接しているわけでもない分野に飛躍するのは規律を欠いている。基本的価値感と矛盾する行動をとるのは規律を欠いている。際立った能力、競争相手より優れた能力を獲得できるわけではない新分野に大掛かりに投資するのは規律を欠いている。経済的原動力・経営資源の原動力に適合しない事業に飛び込むのは、規律を欠いている。規模に執着するのは規律を欠いている。中核事業を放置して興奮を呼ぶ新事業に次々飛び込むのは規律を欠いている。第二段階の現象のうち特に打撃の大きいのが「パッカードの法則」である。
偉大な企業は機会が少なすぎて飢える可能性よりも、機会が多すぎて消化不良に苦しむ可能性の方が高い。偉大な企業が成長を担う適切な人材を集められるよりも早いペースで売上を増やし続けた場合、停滞に陥るだけではなく、衰退していく。
《規律の意味》
異例なほど偉大な企業はいずれも、何よりも、みずから自分を管理する人材、みずから動機をもつ人材に依存している。これが規律の文化で第一の構成要素になる点である。規律の文化というと規則や硬直性や官僚制が特徴になっていると思えるかもしれないが、実際には正反対である。適切な人材が集まり、各人が責任を受け入れていれば、大量の無意味な規則や愚かな官僚制度はそもそも不必要となる。
《第三段階》

モトローラとTIは共に、出発点では小規模な実験と開発に小額を投資する賢明な方法をとっている。しかしTIはモトローラと違って、大量の事実が積みあがって、成功を収められると見られるようになってはじめて、大胆な賭けにでている。大胆な目標は進歩を促すが、事実の裏づけのない大胆な賭けや、方針の誤りを示すデータが増えてきた事実を無視した大胆な賭けは、異例なほどの幸運に恵まれない限り、経営を破綻させうる。そして、幸運に頼るのでは、信頼できる戦略にならない。

IBMを再建したガースナーが社内の危機感について質問されたとき「私は危機感を持っていない。私がもっているのは緊迫感であり、事業が好調なときも不調なときも、いつも変わらず持っている。しかし、IBMが危機に陥っているとはまったく考えていない」

《第四段階》

後退に反応して、組織が特効薬に頼ろうとしたとき。検証されていない新技術に大きく賭ける。実績のない戦略に望みを託す、派手な新商品の成功に依存する、買収案件を探す、イメージ・チェンジに賭ける、救済を約束するコンサルタントを雇う、救世主になるCEOを探す。ここで鍵になるのは、大規模で素早い解決策か大胆な方針によって一気に業績回復を達成しようとして、長期的な勢いを取り戻すために困難な道のりを着実に歩んで以降とはしないことである。

TIの指導者は、偉大さを取り戻すには優れた決定をうまく実行し、それをいくつも積み重ねていく必要があることを理解していた。なかには大きな決定もあるが、もっとも大きな決定すら、偉大な企業の構築という全体的な結果のうち、ごく一部に寄与するに過ぎない。「一夜にして成功を収めた」物語のほとんどは20年前後の努力の結晶である。

第一段階、第二段階、第三段階に衰退の事実を理解すれば、反転は可能だ。いくつかの場合には、第四段階に入っていても、一発逆転策にすがるサイクルから抜け出して一歩ずつ再建を進められる資源が残っていれば、進路を逆転させることが出来る。

《主要なポストに適切な人材》

1. 適切な人材は会社の基本的価値観にあっている。
我々の基本的価値観を従業員に教え込むには、何をすればいいのかという質問をよく受けるが、答は何もしないこと。自社の基本的価値観にあう性格の人を採用し、話さないようにすれば良い。。

2. 適切な人材は厳しく管理する必要がない。
誰かをしっかり管理する必要あると感じた場合には、採用にあたって間違いを犯した可能性がある。適切な人材ならば、その人の「動機付け」や「管理」に大量の時間を使う必要はない。そういう人は良い意味で神経質だし、動機と規律を自分で身につけていて、自分の能力を最大限に発揮しなければ気がすまない。。

3. 適切な人材は「肩書き」をもっているのではなく、「責任」を負っていることを理解している。

4. 適切な人材は達成すると約束したことは必ず達成する。

5. 適切な人材は会社とその仕事に情熱を持っている。

6. 適切な人材は「窓と鏡」の成熟した思考様式を持っている。
成功したときは、成功をもたらした要因を自分以外のところに見出す。成功に寄与した人たちに光をあて、自分の功績だとはほとんどいわない。事態が悪くなったときは、後退や失敗の責任が状況や他人にあったとは主張しない。私の責任だという。

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