現実を視よ

著者(編集者):柳井 正
出版社:PHP研究所

日本のある炭鉱の町が辿った歴史。その昔賑わいを見せていたその地方都市は1960年のエネルギー革命の変化の波、石炭から石油へのシフトにさらされ炭鉱は瞬く間に閉山においこまれた。炭鉱労働者で成り立っていた町からは徐々に住民が去っていき、小学校も廃校。やがて町全体が消えてなくなった。山口県宇部、その後海岸線はセメントなどの工場団地なったが、それじたいも海外へ移りつつある、私達一家が住んでいた商店街もシャッター通りと化し、ゴーストタウンのよう。華やかなりしころの面影はもう、どこにも見当たらない。この日本の宇部とはまさに対照的なコースを歩んだ都市がある。上海である。1985年、初めていった上海の夜の街の暗さには驚いた、街灯はほとんどなく、少し道を外れれば漆黒の闇、しかしよく目を凝らしてみると人がぞろぞろと歩いていた。今の上海はどうだろう。高層ビルが立ち並び、街の中心部には世界のブランドショップが軒を連ね、外国人観光客は引きもきらない。
他人を思いやる気持ち、組織に対する忠誠心、勤勉で努力を惜しまない、清潔で綺麗好き、謙虚に学ぶ姿勢、異質のものを受け入れて昇華させる懐の深さ、侘び寂びや人情の機微がわかる力、、、私達日本人は古来からこのような資質を脈々と受け継いできた。歴史を通してこれだけ高い精神性を持った民族は世界広といえ日本人以外にはないはずである。
この国に必要なのは、経済的自立をめざすこと。自分の足で立ち、自分で生活も出来ない国が、再び世界に冠たる国家などと到底不可能。もう一度稼げる個人、稼げる企業で溢れる日本にしたい。
日本は職人気質の国、だからこし、今は商品気質が必要である。
日本企業が海外でナンバーワンを目指すなら、本社機能を出店先に1/3ほど移すぐらいの覚悟が必要である。グローバル競争は片手まで勝ち抜けるほど甘いものではない。本気で戦いを挑もうとするなら、「まず自らが変わる」という気概をもって、真剣にコミットすべきではないか。
従順や調和を大切にする日本人の特質は素晴らしいが、それを過剰に強調することは資本主義社会を生き抜いていく日本にとってはプラスにはならない。人間の成長は失敗から生まれる(その失敗は挑戦した結果を前提とする)。挑戦して失敗し、そこでいろいろなことを学び、再び挑戦する。これが成長のサイクルである。だから人より多く失敗すればするほど、より早く成長できる。競争を否定し、失敗を恐れて、出来るものだけをやろうとすることは、いつまでもその場で足踏みを続けているようなもの。前に進めずに、体力と時間ばかり消費してしまう。欧米ではよく「立ち止まることは最大のリスク」という。
成功方法よりも普遍的な考えを持て
時代が変化しても普遍的に通用する考え方というものがある。世の趨勢に影響されない自らの視点を持ってもらいたい。いかは著者が長い経験の中から掴んだ原則です。
1.起こっていることは、すべて正しい。
自分にとって不都合なものであっても、目の前の事実を躊躇なく受け入れること。言葉を変えると「世間は正しい」と常に思えである。世間や大衆に対し度を越えたプロダクトアウト的、傲慢ビジネスをしていては成功できない。売れない理由はある。
2.人間は求めていい
生きるということは求めることでもある。何かを求めて頑張るのは、時につらく、苦しい。でもそのつらさがあるからこそ、手に届いたとき、何物にも変えがたい喜びを手に出来る。
3.重要は「ある」のではなく「つくりだす」
需要を新しく作り出すためには、顧客の立場に立って「いったい何に不満を感じておられるか」という潜在ニーズを頭を振り絞って日夜考える。
4.成功しているといわれる企業に躍進の秘訣をききに行け
鄧小平がシンガポールの首相に「あなたの言ったことは正しい、どうしたら中国はシンガポールのように変われるのか教えていただきたい」と頭を下げた。そして中国の官僚教育の一部をシンガポールに委託する約束を取り交わした。
5.売れる商品は世界中どこでも同じ
熱帯雨林季候のシンガポールでは10月でも28度。日本の真夏並みであるのにもかかわらず、「ウルトラライトダウン」が一番売れる。そんな暑い国でダウンを買ってどこ出来るのかと思われるらしいが、どうやら枯れラバ海外旅行に行くときにソレを持っていくらしい。確かに軽くてかさばらない、更にはヒートテックがも人気である。東南アジアに行く人は分かるだろうが、外は暑くても建物内部はこれでもかといわんばかりクーラーをかけてむしろ寒いぐらいである。
6.100億円売ろうと決めねば100億円売れない
ユニクロ銀座店をオープンした時、公の場で発した。店長からしてみたら大変なもので、当初の予算はその半分ぐらいの売上。だからそれからが大変だ、100億円売る計画には、これまでの方法論を一度、完全に捨て去らねばならない。一切の先入観を持たずである、優秀な人間ほど過去の思考パターンに引きずられてしまう。
7.戦うのなら、勝ち戦をすること
経営は試行錯誤の連続、失敗談は限りなくある。商売には失敗がつきもの、新しいことを始めれば9回は失敗する。成功した経営者の中には1%とおっしゃる方もいる。現実はいつでも非常に厳しい。結局は、挑戦し、失敗するから原理原則が分かる。傷を負い、痛い思いをして、自分の血肉となったものだけが、次のチャンスで威力を発揮する。資本主義社会では挑戦は、すればするほど得になる。人間の劣化の度合いは、挑戦の数の少なさに比例する。
但し、やってはいけない挑戦がある。ビジョナリーカンパニー?でもいう「失敗したら息の根が止まるような、無謀な挑戦」である。予め、ここまでの失敗なら耐えられるというラインを決めておき、いよいよまずいとおもったら、その直前で撤退する。わたしはいつもそうしてきた。
8.日本語はハンデにはならない
言葉と思想は機っても切れないもの、だから日本語教育は大変重要である、勤勉で努力を惜しまない、仕事に対する責任感、謙虚に学ぶ姿勢、思いやりの心といった日本人らしさ、、一方社内公用語を英語にするのは進出するマーケットでもっとも使われる言葉英語だからであり、いわばそこで仕事をしていくための必要な運転免許のようなものである。
9.日本の商人道を取り戻せ
一時期のITバブルで湧いた時期に生まれた風潮、どういう設け方をしてもいい、設けた金を好き勝手に使って何が悪い。そうした考え方と日本の商人道は対極にある。そう、社会全体をもっと豊かにするために私達は稼がないといけないという信念である。タイで洪水が発生した、家が水浸しなのに工場で仕事とはと思う人もいるかもしれないが、日本電産の社長は言い放つ「工場の再開が遅れれば、それだけ多くの人に迷惑がかかる、そして、タイの従業員達も工場が動かなければお金が入らない。なるべく休まずに働かせてやるほうが全ての人にとってメリットがある」
10.苦しいときほど「理想」をもて
東京タワーを建築し発展途上を迎えようとしていたかつての日本、現在の日本と比べものにならないほど貧しかったが、どこかカラッと突き抜けた明るさがあった。少なくとも、今のよどんだ空気は、そこには漂っていない。スカイツリーが立ち上がった今日と何が一番違うのか、人々のもつ「理想」の違いではないかと思う。苦しいときほど理想を持つこと。三年後には海外で活躍するビジネスパーソンになるという理想をもてば英語を学ぶし、資金をためようと思うし、やることが一杯見えてくるはずである。そして理想は大菊である、100億円稼ぐと決めたときからそのやり方が変わる、身の丈にあった目標はそのままでも生けるいう現実性だけで、立ち止まると同じである。欧米ではそれを最大のリスクと呼ぶのは先ほど綴ったとおり。
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